2013年10月18日

「もはや戦後ではない」高度経済成長期、昭和31年のこけしたち

わが国の経済白書に 「もはや戦後ではない」 という言葉が登場したのは昭和31年(1956年)とのこと。そんな高度経済成長の只中にあった時代に製作されたこけしを何本か紹介します。
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「もう戦後でもない。ひょっとすると戦前になるかもしれない。こけし界も盛んになって、次第にあの昭和十五、六年のブーム時代をむかえるのかもしれない。さかんに、こけしは動いており、新しい人々が新しいこけしを求める。古いこけしは一頃のように出なくなってしまった。古い殻にとぢこもり、いたずらに回顧し、自慢するのは、アナクロニズム以外の何ものでもない。こけしを静かに眺めることは昔も今も変わりないはず。古い蒐集家が眺めることを止めている間に新しい蒐集家がどんどんふえて眺めている。こけし作りの方も戦後の一頃のように、ひどい胸のむかつくような甘っちょろいものは作らなくなった。この点は、今の蒐集家も安心し落ち着いて蒐めたらよいと思う」  『こけし手帖13号』 昭和32年2月号 鹿間時夫氏記事より
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写真左は、岩本芳蔵こけし一尺。昭和32年作。福島県中ノ沢温泉の岩本芳蔵が、「東京こけし友の会」 小野洸氏の根強い説得によって ”たこ坊主” こと 「岩本善吉型こけし」 の製作を開始したのが昭和31年の話。その一年後、昭和32年に製作されたものがこのこけしです。現在も多く流通している昭和40年代の共通型に比べて、表情および胴模様が太筆で豪快奔放に描彩された佳品です。同時期に刊行された 『こけし手帖13号』 で鹿間時夫さんが当時のAクラスこけしとして推薦していた芳蔵こけしもこれと同年代のもの。(他に、新山久治、大野栄治、奥山喜代治、横山政五郎、鈴木幸之助) この意匠の生みの親で、中ノ沢温泉名物 ”逆さかっぽれ踊り” の名手であり、芳蔵の父でもあった岩本善吉は、たこ坊主の継承を誰にも許すことなく他界してしまったため、前述した小野洸さんの尽力なくしては、荒川洋一さんを始めとする芳蔵の弟子たちが現在も製作しているたこ坊主の存在は無かったのかもしれません。
写真右は、佐藤丑蔵こけし5寸。昭和31年作。肘折、及位(のぞき)、湯田、遠刈田など各地を転々と渡り歩いた名工、佐藤丑蔵69歳の作です。丑蔵は温泉地などに卸売りする一般販売用と、第二次こけしブーム只中だった当時の蒐集家用に、その器用な腕前を振るって自身のこけしを作り分けていたとのこと。昔の言い方で ”マニヤ用” に製作されたこけしは胴模様が一段階凝っていたり、胴裏にも追加でアヤメ模様などが描かれたりと手の込んだ作りとなってます。顔のパーツが中央に寄った表情が可愛らしい写真のこけしも後者のマニヤ用に属すのでしょうか。
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写真左は、斎藤弘道こけし8寸。昭和30年後期頃の作。福島県土湯温泉で昭和33年頃から斎藤太治郎型こけしを継承製作されている三代目斉藤弘道さんは、今現在も現役でこけしを製作されてます。当時の太治郎こけしは、楷書体の筆でゆっくりと丁寧に描かれた所謂 ”上手物”(うわてもの) と呼ばれ、同時代に活躍した阿部治助のこけしとは対を為す存在でした。実生活では博学インテリでこけしの製作量は寡作だった太治郎に対して、家族に相次いで先立たれて自然災害にも見舞われ不幸続きだった治助は、人生の上でも太治郎とは対極の存在であったともいえるでしょう。このことは双方のこけしの表情にも克明に表れてます。その斉藤太治郎亡き後に、彗星のように表れた隔世遺伝の天才こと斉藤弘道氏の存在は当時のこけし界においてセンセーショナルな事件だったとのこと。そんな弘道氏の太治郎型こけしは33年〜34年作がピークとされ、時代の変遷と共にその表情も変わっていき、現在のこけしは当時の太治郎型とはほぼ別物の本人型となりました。当時人気を博した斉藤太治郎のこけしですら ”老婆の厚化粧” などと揶揄された時期もあり、長いスパンに同じものを一定の水準で作り続けることは難しいことで、良い塩梅に筆致が枯れた晩年の作も ”枯淡の味わい” として楽しみたいものです。
写真右は、阿部広史(阿部廣史)こけし8寸。昭和31年作。同じく福島県土湯温泉の木地師で、胴模様に描かれた大きなボタンの花が特徴のこけしを製作。可憐で可愛らしい表情と価格が比較的安かった理由で購入しました。この時代の土湯系こけしによく見られる特徴として、頭部の素材がビヤベラ(南部系に使用される別名アオハダ)で、胴体の素材がイタヤカエデと別素材の組み合わせで作られたもが多いです。材料不足が原因だったのでしょうか。
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...以上、仕事の合間に遥かなれども東北の郷愁を誘うコケスンボコ閑話でした。
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所変わって、JETLINKの建物を裏手に回ると江戸川が一望できる河川敷です。こちらでは野生のニャンコと沢山遭遇できますので気分転換に訪れたりしてます。
ジェットリンクの民芸今月の新作は、相良人形の「招き猫」です。間に合えばもう一つ、鳴子温泉の佐藤賀広さん作「ニャイガーマスクこけし」も頒布予定です。お楽しみにどうぞ。 http://www.jetl.com/index3.html


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